1mm.

わたしのこころの 真空パック

小説

「ほら、目を閉じて。

すぐに眠れるはずだから」

 

よく聞いた言葉だ。

幼い頃から今日が終わってしまうのが嫌で駄々をこねるように泣く僕の隣に彼の言葉があった。

その言葉を聞くと、案外明日はすぐに訪れるし、きっと今日より素敵な日になると思えた。

だから安心して眠りにつくことが出来たのだ。

最期の瞬間さえ、また夢で逢えるから、と彼は言った。

また逢える。何となくそんな気がした。

だから最後の言葉も「またね」だったのだ。

 

思えば僕達は最初から、二人でひとつだった。

君が居たから、僕達は一人になってしまった。

僕がいたから、僕達は一人になってしまった。

でも僕達は決して独りではなかった。

ずっと二人だったからね。

 

首が絞まる。

息が細くなり、喉が鳴る。

喉から伝わる体温。手から伝わる体温。

これは、自分の感覚かなのか。

それとも、君の感覚なのか。

分からなくなって解けるように世界が集まる。

 

いつだって僕達の考えは一緒だった。

君に笑顔で生きていて欲しい。

なのに、どうして。

忘れたくない。

消したくない。

何もかもずっとこのままならいいのに。

 

最期まで目が離せなかった。

そこに光が見えなくなるまで、目が離せなかった。

 

この空間で僕らは僕らの世界と決別したのだ。

 

一歩、また一歩と外を目指す足音が、最後の最後まで響いていた。

狭い世界の中で、たった二人手を取って生きて来た僕達は、今まさに正しい世界へと歩みを進めていた。

間違いなんてない。

二人の選択に間違いなんてないのに、世界に絶望している自分に気づいてしまう。

これを悲劇と呼ばず、なんと呼ぶのだろうか。

 

開いた世界の先で、誰かが僕に問う。

-アナタノナマエハ?

-僕の、名前。

僕の名前は…。

 

僕はこの瞬間、たった一人で "僕" となったことを確信することが出来た。

ずっと二人で世界と生きていたのに。

もう彼の居場所はないのだ。

 

そう。

どこを探しても、もう、そこに彼はいなかった。

 

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より「ほら、目を閉じて」で始まり、「そこに彼はいなかった」で終わる840文字以内の物語

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(本文計832文字)